
見え方が変わらないうちに、目の奥を確かめておく意味
糖尿病の定期受診で「そろそろ眼科も」と言われても、見え方は以前と変わらない。仕事や家族の送迎を調整してまで行くべきか迷ううちに、前回の眼底検査から数年たっていた。そうした方は珍しくありません。
糖尿病網膜症は、視力に影響が出る前から網膜の血管で変化が始まることがあります。この記事では、症状がなくても検査を続ける理由、網膜症の有無や程度で変わる受診間隔の目安、散瞳検査の日の運転について整理しました。今の目の状態を一度確かめておくと、次の受診予定を決めやすくなります。
この記事の要点まとめ
- 糖尿病網膜症は自覚症状がない時期にも進むことがあり、眼底検査で網膜の状態を確認します。
- 糖尿病と診断されたら眼科に相談し、網膜症の有無や程度に応じて受診間隔を決めます。
- 散瞳薬を使う場合は運転を控え、予約時に検査方法や所要時間、帰りの交通手段を確認します。
目次
症状がなくても眼底検査を続ける理由
見え方に変化がなくても、網膜の血管では糖尿病による変化が少しずつ進むことがあります。視力が落ちてから気づくのでは遅れることがあるため、症状のない時期から目の奥を確認しておきます。
見えていても網膜の血管に変化が起こる
高血糖が続くと、網膜に張りめぐらされた細い血管の壁が傷みやすくなります。初期には毛細血管瘤(細い血管の一部がこぶ状にふくらんだもの)や小さな出血が見られます。
こうした変化が、ものを見る中心である黄斑から離れた場所にあるうちは、視力にはほとんど響きません。目の奥の変化と自覚できる症状の間に、時間差が生まれるのはこのためです。
糖尿病網膜症は世界的にも患者数の多い合併症で、働く世代の予防できる視力低下の主な原因のひとつとされています1。見えにくさを感じたときには、すでに進んでいる場合がある。症状のない時期に検査をする理由はここにあります。
視力検査だけでは分からない変化を眼底で調べる
視力検査や眼圧検査で異常がなくても、網膜の血管の状態までは分かりません。調べている対象がそもそも異なるからです。
| 検査 | 調べるもの | 網膜症の初期の変化 |
|---|---|---|
| 視力検査 | どれだけ見えるか | 分かりにくい |
| 眼圧検査 | 目の硬さ(緑内障の手がかり) | 分からない |
| 眼底検査 | 網膜の血管・出血・むくみ | 確認できる |
視力が1.0あっても、眼底に網膜症の変化が見つかることはあります。眼底を観察・撮影して網膜症を早い段階で見つける取り組みは、さまざまな方法で検証が進められています2。
急な見えにくさや飛蚊症は次の定期検査を待たない
次の定期検査が先の予定でも、以下のような変化があれば早めに眼科へご相談ください。
- 数日のうちに急に見えにくくなった
- 黒い点や糸くずのような影が急に増えた
- ものがゆがんで見える、視界の一部が暗い
進行した網膜症では、網膜の出血や黄斑のむくみが視力に影響することがあります3。ただ、同じような症状は網膜症以外の目の病気でも起こります。症状だけで網膜症と決めつけず、眼底を確認したうえで原因を見極めていきます。
ポイント
見え方に変化がない時期でも、網膜の血管の変化は眼底検査などで確認できます。急な見えにくさがあれば、定期検査を待たずに相談しましょう。
糖尿病の眼底検査は、いつから・どの間隔で受ける?

糖尿病と分かった段階で一度眼科を受診し、その後は網膜症の有無と程度に合わせて間隔を決めていくのが一般的な考え方です。ここで紹介する間隔は診療上の目安で、実際の予定は眼科医が診察結果をもとに判断します。
初回受診は糖尿病の型によって時期が異なる
2型糖尿病は、診断されるまでに高血糖の状態が何年か続いていることがあります。糖尿病と診断されたら、速やかに眼科を受診し、定期的な検査を受けることが大切です4。
1型糖尿病は発症の時期が比較的はっきりしているので、発症からの年数を踏まえて検査を始める時期を主治医と相談します。
どちらの型でも、数年間眼底検査を受けていないなら、まず一度受診して今の状態を確かめることが先決です。現状が分かれば、その後の間隔も決めやすくなります12。
網膜症が見つからなかった場合の受診間隔
網膜症がない場合も、次回の受診間隔は眼科医にご相談ください。続けて眼底を確認しておくと、前回の画像や所見と見比べて小さな変化に気づきやすくなります2。
血糖が安定していれば次回を延ばせる場合もありますが、それを決めるのは眼科での診察です。「去年も異常なしだったから」と自己判断で検査をやめると、変化の始まりをとらえる機会を逃してしまいます。
網膜症が見つかったら進行段階で間隔を短くする
網膜症が見つかったときは、進み具合に応じて受診の間隔が短くなります。
| 眼底の状態 | 受診間隔の一般的な目安 |
|---|---|
| 網膜症なし | 眼科医と相談して決める |
| 軽い段階 | 半年〜1年ごと |
| 進んだ段階 | 数か月ごと |
黄斑のむくみがある場合や、レーザーなどの治療が検討される状態では、この表とは別に予定が組まれます。視力に影響しやすい段階の網膜症も糖尿病の方の中で一定の割合で報告されており1、表は一律の予定ではなく、眼科医と相談するときの出発点として使ってください。
血糖の変動や妊娠など、予定を見直したいとき
前回決めた間隔より早めに確認したほうがよい場面もあります。たとえば、HbA1c(血糖の平均的な状態を示す値)が大きく変わったとき、治療の変更で血糖が短期間に大きく下がったときなどです。
妊娠中や妊娠を考えている時期の受診予定についても、医師にご相談ください。前回の眼底検査で「経過を見ましょう」と言われている方も同様です。
こうした変化があったときは、糖尿病の主治医と眼科の両方に状況を伝え、次回の時期を改めて決めていきます12。
ポイント
受診間隔は「網膜症の有無と程度」で決まり、血糖の変化や妊娠などで見直すこともあります。延ばすか短くするかは眼科で確認しましょう。
眼底検査の当日と、無理なく通うための相談
検査そのものは短時間で済むことが多い一方、瞳を広げる目薬を使う場合は帰り道まで含めて予定を組む必要があります。予約の段階で確認しておくと、当日の段取りが楽になります。
眼底を調べる方法と、追加の検査が必要になる場合
眼底検査では、瞳の奥にある網膜・血管・視神経を、専用の器具での観察や眼底カメラでの撮影によって確認します。出血や毛細血管瘤、むくみの有無などが主な確認点です2。
黄斑のむくみが疑われるときは、網膜の断面を調べる光干渉断層計(OCT)などの詳しい検査が使われます。その所見は視力の見通しや治療方針を考える材料になります3。必要な検査や治療の内容によっては、ほかの医療機関と連携して進めます。
散瞳する検査では、帰りの運転も予定に入れる
散瞳薬(瞳を広げる目薬)を使った後のまぶしさや手元のピントの合いにくさには個人差があります。運転については医師にご相談ください。散瞳した日はご自身で車を運転して帰らない前提で予定を立ててください。
早番の仕事明けに車で向かう、検査のあとに家族の通院の送迎があるといった日程だと、調整が難しくなります。散瞳の有無を予約時に確認し、家族に送り迎えを頼む、送迎の予定がない日を選ぶなど、前もって組み立てておくと予定を調整しやすくなります。
受診予定を立てる前に確認したいこと
眼底検査を受ける予定がある場合は、受診前に散瞳の有無、検査にかかるおおよその時間、眼科を受診できる日程をあらかじめ問い合わせておくと、勤務や送迎との調整がしやすくなります。
費用は検査内容や保険の負担割合で変わります。インターネットなどで見かける金額は一般的な相場であって当院の費用ではなく、実際の費用は医療機関によって異なりますので、受診先に確認してください。車で送り迎えを頼む場合は、検査が終わるまでの待ち時間や待ち合わせ場所も確認しておくと、帰り道の予定を立てやすくなります。
糖尿病の診療内容を眼科へ伝え、次回予定を決める
眼科を受診するときは、血糖の経過、飲んでいる薬やインスリンの有無、以前の眼底検査の時期と結果を伝えてください。網膜症の進み方には血糖の状態が関わるため、こうした情報が受診間隔を決める判断材料になります1。
次回の受診時期を考える際は、症状だけでなく一人ひとりの生活背景も伝えておくと、無理のない予定を相談しやすくなります。内科で確認している血糖の状態と眼底の所見をあわせて、勤務やご家族の送迎に合う次回の時期を相談しましょう。必要に応じて、医療機関同士で連携することもあります2。
まずは次の内科受診の際に「前回の眼底検査はいつだったか」を確かめ、散瞳の有無とあわせて眼科の予約をご相談ください。
よくある質問
Q1. 眼科で糖尿病の検査はしてもらえますか?
A. 眼科で行うのは、糖尿病そのものの診断ではなく、網膜症など目の合併症の有無を確認する検査です。血糖値やHbA1cの評価、糖尿病の治療は内科で行います。内科と眼科の両方で経過を共有しながら進めていく形が一般的です。
Q2. 眼底検査が必要な人はどのような人ですか?
A. 糖尿病と診断された方は、見え方に変化がなくても眼底検査の対象になります。高血圧のある方や、健診で眼底の所見を指摘された方も検査を受ける意味があります。ご自身に必要な頻度は、医師にご相談ください。
Q3. 毛細血管瘤とは何ですか?
A. 網膜の細い血管の一部が、こぶのようにふくらんだものです。糖尿病網膜症の初期に見られる変化のひとつで、この段階では視力に影響しないことがほとんどです1。見つかった場合は、経過を見るための受診間隔を眼科医が判断します。
Q4. 眼底検査のあと、車を運転して帰れますか?
A. 瞳を広げる目薬を使った場合は、まぶしさやピントの合いにくさがしばらく続くため、運転は控えてください。散瞳しない方法で検査する場合もありますので、予約の際に散瞳の有無と帰りの交通手段を確認しておくと予定を立てやすくなります。
参考文献
1. Teo ZL, Tham YC, Yu M, et al. Global Prevalence of Diabetic Retinopathy and Projection of Burden through 2045: Systematic Review and Meta-analysis. Ophthalmology. 2021. PMID: 33940045 / DOI: 10.1016/j.ophtha.2021.04.027
2. Yudistira Y, Hendrawan KA, Andayani A, et al. Diabetic Retinopathy Screening Approaches in Developing Countries: A Systematic Review and Meta-Analysis. Turkish Journal of Ophthalmology. 2025. PMID: 41142633 / DOI: 10.4274/tjo.galenos.2025.32916
3. Nanji K, Grad J, Hatamnejad A, et al. Baseline OCT Biomarkers Associated with Visual Acuity in Diabetic Macular Edema: A Systematic Review and Meta-analysis. Ophthalmology. 2026. PMID: 40803536 / DOI: 10.1016/j.ophtha.2025.07.038
4. 糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1版)|日本眼科学会. https://www.nichigan.or.jp/member/journal/guideline/detail.html?itemid=324&dispmid=909
常滑市民病院(現:知多半島りんくう病院) 内科
名古屋第一赤十字病院(現:日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院) 内科
名古屋大学医学部付属病院 第一内科第8研究室
トヨタ記念病院 消化器内科
前田クリニック 開業
日本肝臓学会認定 肝臓専門医
日本医師会認定産業医
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